2022年に設立されたByside株式会社。「買い手専門のM&アドバイザリー」という、これまでになかったユニークな事業を手掛け、急成長を遂げています。他にはないビジネスモデルを立ち上げ、最も難しい初期の荒波を乗り越えたByside株式会社はますますの成長が期待されています。
なぜ買い手専門の事業会社を設立したのか、そのメリットはどこにあるのか、またこのような事業を手掛けた背景などをByside株式会社の代表取締役社長 川畑勇人さんにうかがいました。
[プロフィール]
Byside株式会社
代表取締役社長 川畑勇人さん鹿児島県奄美市出身。高校生のときにイベントサークル代表を務め、4000人を集客するイベントの運営を統括。大学卒業後、2008年に株式会社キーエンスへ入社。国内トップクラスの成績を残し、同期内最速で責任者へ昇格の内示を受ける。
2014年に大手仲介会社へ入社。入社2年半での全社MVPを獲得。在籍中は、主に譲受企業の担当として、顧客に最適なマッチング、候補先の提案を続け、そのノウハウを組織へ浸透させた。その後、PMI支援に特化したコンサルティング会社の取締役に就任。2022年、Byside株式会社を設立し、代表取締役に就任。
――Byside株式会社を立ち上げた背景として、川畑社長の経歴から教えてください。
もともと本が好きだったのと、大学では小説を書くことを学びたいと早稲田大学第一文学部に入学しました。インターネット上ではたびたび「文学部不要論」が取り沙汰されますが、今となっては僕は「文学部は最強」だと考えているんですよ。ストーリーを創り上げてそれを相手に伝えることができる。これはどんな仕事をするうえでも必要な思考であり、有用な技術です。
昔から「他人と違うことをしたい」「何か事を為したい」という思いが強くありました。けれど、そのころの自分にはまだビジネスで通用するスキルは何もありませんでした。そこでまずは営業力をつけようと、セールスにおいて高く評価されているキーエンスに入社したんです。
キーエンスでは工場にセンサーなどを販売することが主な業務だったので、さまざまな街の工場へ出向き、たくさんの営業実績を積みました。もともと「自分もいつかは経営者になりたい」という思いがあったのですが、年齢を重ねるに連れ、その思いが強くなっていったのです。
しかし現場でセンサーを販売するだけで、会社経営については何も学んでこなかったために、会社を立ち上げる方法すらわからない。そこで、経営についてたくさんの事例を見聞きできるM&A業界へ入ることにしたんです。
――M&A業界に入ったことでどのような学びがありましたか?
入社した日本M&Aセンターでは毎日何件もの経営事例を目にしました。数多くの経営者に会い、話しをしたことで、日本の中小企業の課題や強みが肌でわかるようになっていった。どのような企業が発展し、どのような企業は改善が必要なのかもすっかり見えるようになっていったんです。
同時にM&A業界自体に対する知見も深まっていきました。そして業界全体に広がっているある課題を解決したいと思うようになっていったんです。
――どのような課題をみつけたのですか?
日本では、私が業界に入った2014年以降からM&Aが一般の方にも広く知られるようになっていきました。後継者問題があちこちで表面化し「親族で承継できないときにはM&Aという手段がいいらしい」という考えが珍しいものではなくなったのです。
そしてこのころから大手だけでなく、M&A仲介をするベンチャー企業が増えていきました。2022年には個人事業をあわせて3000件近いM&A支援機関の登録があったのです。その6割が設立1年に満たない事業者でした。
大いに盛り上がっているように見える日本のM&A業界ですが、実はそれに反して成約件数は対して伸びていないのが現状です。2019年から2022年にかけて、M&A成約件数は4000件程度のまま。おそらく大手仲介業者にいた人が独立し、そのまま商売を続けているだけで、それぞれの会社は成長できていないということなのかもしれません。
M&Aを活性化させて日本の経済を元気づけるためには、成約件数を増やして本当の意味でM&A業界を成長させなければならないと感じました。
――なぜ、日本のM&A業界は成長できていないのでしょうか。
理由は、M&A仲介業者のビジネスフローにあります。
M&A仲介業者の仕事は、基本的に売り手探しから始まります。DMの送付や架電などで会社を譲渡したい経営者を探しだし、説明をして、交渉の末、契約へと漕ぎつけます。M&Aアドバイザーの仕事は6割が売り手探しだと言ってもいいでしょう。売り手がみつかるまでは永遠にアポイントを取り続けなければなりません。ストレスフルで過酷な仕事です。売り手をみつけても、資料収集、案件化作業など、実際に手を動かさなければならない作業が多く、新規の案件のソーシングも実施しなければならないため、心身ともに疲れ切っていて買い手を見つける気力や体力が残っていない、というケースもありますし、そもそも時間も割けない。するとやっとの思いで売り手をみつけたのに成約できないというケースが出てきます。
このような事態を解決するための手段として、M&A仲介業者のために買い手を紹介するサービスが求められているのではないかと考えました。
――そこで、買い手専門のM&Aアドバイザリー事業を立ち上げることにしたんですね。
そうなんです。実は日本M&Aセンターにいたことから、私は買い手をみつけるのが得意でした。だからそれを生かせると思ったんです。
これまで、M&A業界はほとんど横のつながりを持っていませんでした。互いはライバルであり、もしも情報が漏れれば顧客を奪われてしまう心配があったからです。けれどM&A業界全体を活性化させるためには必要な情報交換は行われるべきです。そこで仲介業者の間に立つ事業が成り立つと考えました。買い手がスムーズにみつかれば、M&Aの成約件数は大きく伸びていくはずです。
この目論見は当たり、Bysideは2024年3月現在、300社ほどのM&A仲介業者と提携し、買い手探しのお手伝いができています。
――他のM&A仲介業者が買い手探しに苦労するなか、なぜBysideは数多くの買い手を集めることができたのですか?
買い手を探すための方法は3つあります。
1つは人力によるもの。買い手の獲得のために一定の人員を確保し、興味をもちそうな経営者にコンタクトをとっています。買い手探しのノウハウは独特です。私を含め買い手探索が得意な人がそのメソッドを社員に伝え、買い手獲得に動いています。
2つめはシステムによるマッチングです。Bysideでは買い手専門のM&Aアドバイザリー事業に特化しているため、そこにリソースを費やし独自のシステムを開発することができました。AIも駆使し、買い手となりそうな経営者や事業者をスコアリングしています。これにより、人力だけではカバーできないところまで隈なく見渡せるようになりました。
3つめは、他社との連携です。通常、M&A仲介業者は売り手探しも買い手探しも自社内で完結させようとします。しかしBysideはM&A仲介業者の競合にはならないため、互いに連携し役立つ情報を交換できるのです。
――売り手探しをしないとなると、業務内容は一般のM&A仲介業者とは異なりそうです。
大きく異なります。まず売り手探しのためのDM送付や架電は行いません。買い手を探しているという連絡を受けたら、連携している企業と連携し、候補をピックアップすることから業務がスタートします。
リストアップされていない買い手を自社でリストアップし、他にも自社も未だアプローチできていない買い手を新たに探し出すことも多いですが、それぞれ各案件に紐づいた候補先を開拓することになるため、探し出す対象が明確で、アプローチしやすいという点が特徴的で、業務を遂行するうえでのストレスは少ないと思います。
――競合他社はありますか?
買い手専門のM&Aアドバイザリーは今のところBysideが唯一ではないでしょうか。他では聞いたことがありません。
多くの人が考えたこともなかった事業なのでしょう。それゆえに起業の際には多くの人に「そんな事業は無理だ。成り立たない」と言われました。けれど私自身がM&Aアドバイザーとして働いていた経験から、ビジネスモデルには絶対の自信があったんです。やりきる熱もあった。そして実際に稼働させてみたら想像以上にニーズがあることがわかりました。お手本となる事業者が一切ない状態でしたので、1期目は大変でしたが、現在は軌道に乗ってきています。
――BysideがM&A仲介業者に与えたインパクトは大きそうですね。
そうですね。M&A仲介業者が「理想的だ」と思える買い手をみつけたとしても、売り手企業に気に入ってもらえず、成約に至らないというケースは多々あるのです。すると、成約するには紹介できる買い手の数がカギになります。Bysideは買い手探索という場面において質の面でも量の面でも支援できるので、M&Aの成約件数を大きく引き上げることができます。
――今後の展望を教えてください。
Bysideを大きく強く発展させていきたいですね。そのためには優秀な社員をより多く雇用し、システムを充実させ、他社との連携を強化していきたいです。
現在、Bysideのシステムは社内だけで使えるようになっていますが、将来的には連携企業にとっても使い勝手のいいプラットフォームとなるように準備を進めています。
現状では、日本のM&A仲介業者にはどこでも同じような問題があると思うので伸びしろは大きいと考えています。
The Deals編集部
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